ツギタビ

次の旅はどこに行こうかな。これまでの旅の記憶とこれからの旅の記録。

現代アートはいかにして大衆に受け入れられていくのか。尾道で考えたこと。

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 なんか硬いタイトルになってしまいました。

「海と山のアート回廊」の作品を見る中で、いろいろ考えさせられることがあったので、ちょっと書かせてください。

「現代アート」って、ちょっと、とっつきにくいですよね。

すごーく成功している草間彌生や村上隆だって、作品は見たことがあっても、アーティストの名前が出てこない人も多いのではないでしょうか。

 

そんな現代アートに、日本でも追い風が吹いてきていて、こうして芸術祭やアートイベントがいろんなところで開催されているのだと思います。

 

前置きが長くなりました。

 

尾道市立美術館は、尾道観光のハイライトである千光寺公園の中にあります。千光寺もですが、尾道の市街地や瀬戸内の島々が一望できる、それはそれは素晴らしいロケーションにあるのです。

 

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そんな観光地のど真ん中、そして草間彌生のキャッチーなポスター、入館料大人800円(ロープウェイ割700円)というお手頃価格のおかげで、おそらく現代アートをこれまで見る機会のなかった人も、気軽に訪れているようでした。

 

www.love-voyage.com

 

そんな人たちが、初めて現代アートに触れて口にする言葉が、とても興味深かったのです。

 

「さわひらき」の映像作品では、日常の空間にありえない情景が入り込んでいる映像(バスタブやキッチンなどでヤギが列をなして走っているとか…)が流れるのですが、

現代アート慣れしてしまうと、

「あーこういう感じね」とわかった気になってしまいがちなのです。

 

しかし、その展示室で私が耳にしたのは、その情景に驚き、なんとかその超常現象を現実の中に折り合いをつけて理解しようとしている言葉でした。

「あれは羊のおもちゃを浮かべてるんだよ」

「なに?窓の外の景色が映ってるの?えっ、でもベッドの上にも走ってるし…」

「やだー、なに、おもしろい〜」などなど。

 

たぶんさわさんは、評論家の小難しい分析よりも、この言葉を聞きたいんじゃないかなと思ったのでした。

 

鴻池朋子の大作「第4章 帰還 シリウスの曳航」の前では、小学生の女の子が難解な絵を一生懸命理解しようと、お母さんに質問をしています。

「これ何、おおかみ?なんでこれ足しかないの?」

お母さんは受付でもらった尾道市立美術館作成の「現代アートってどう見るの」の解説文を読んで、一緒にあれこれ悩んでいます。

「モチーフである六本足の狼、少女の足、ナイフと羽根が渾然一体となって…」

「んー難しいね。でもすごいね。」

 

現代アートの一ファンとして、こんな風に少しずつ、現代アートが好き!という人が増えていくとうれしいなーと思いました。

 

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昔、六本木展望台にある森美術館のチケットセラーをしていた知り合いが、森ビルの社長がなぜあそこに現代アートの美術館を作ったかについて、話をしてくれました。

 

実は当時、展望台のチケットを買った人は、もれなく森美術館の入館料が含まれていて、おまけのような感じで現代アートを楽しむことができたのです。(今もそうなのかな?)

森美術館は要らないから、展望台チケットをまけろというクレームもあったようですが…

 

森ビルの社長は、六本木ヒルズの展望台を訪れた人に、たまたまでも良いから現代アートに触れて欲しい。そして「アートっていいな」という人が増えることが、日本のアートを育てることになるというお考えだったようです。

 

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その考えを実践するような出来事が、尾道の旧絵のまち館の映像作品の展示会場でもありました。

 

旧絵のまち館は商店街の中にあるのですが、受付係の私よりちょっと年上のおじさまは、商店街を行く人に

「ちょっと見ていって、休憩所代わりに。涼しいよ〜」

と声をかけています。

その甲斐あってか、長椅子4つくらいの真っ暗な展示室は、そこそこ人が入っています。

 

鴻池朋子のアニメーションが終わり、人がぱっと去った後、小学生高学年の2人組の女の子が入ってきました。

 

そういう時に限って、難解な映像作品が始まってしまいました。

超リアルに作られた仮想の図書室の床タイルの色が、すごーくゆっくり1枚、1枚、黒に変わっていきます。

「落とし穴かなー」

「向こうから急になんか出てきたりして」

「…」

「…」

5分間頑張って観ていたけれど、出て行ってしまいました。

その後の5分も同じ映像だったので、あそこで退出して正解でした。

 

その次には、お年寄りの女性2人組が入ってきました。

展示室の中にはおばあちゃんたちと私だけという状況でした。

 

「何これ?教養のないもんにはわからん」

「無声映画かな」

「でも涼しいなー、涼んでいこか」

「ところで〇〇さんとこの・・・」

 

現代アートの映像作品を2本分、おばあちゃんの超ディープな世間話を聞きながら鑑賞するという、シュールな体験をしました。

 

この時考えたのです。

すみません、静かにしてもらえますか、と言うべきか。

でもおばあちゃんたちは悪くないよなー、休憩所代わりと言われて入ったんだもん。

しかし、そもそも現代アートの展示室が、休憩所代わりで良いのか。

そんな時思い出したんです。森ビルの社長の言葉を。

もしかしたら休憩所代わりに入った展示室で、現代アートっておもしろいと思ってくれる人がいれば、それもまぁありなのかなっと。

 

もうおばあちゃんとの根比べだな、と3本目の映画が始まった時、まさかの出来事が。

始まった映像作品は、2台のおもちゃの戦車が、アスファルトの道路上で、まるで陣地争いのように押し合い圧し合いをするというもの。

するとおばあちゃんたちが、トランプ大統領と北朝鮮の話をし始めたのです。

なんかこの映像作品の意図が、おばあちゃんたちにちゃんと伝わってる?

 

こんな感じでいいのかも、と思って旧絵のまち館を出たのでした。

 

でもできれば、世間話はやっぱりやめてほしい。そのためにも、世間話をさせないような作品のセレクトだったら良かったのかな。商店街でふらっと入って楽しむことがコンセプトというのも、全然ありだと思うのです。いや逆にすごくいい。

そんな人が「あーアートって難しいと思っていたけど、なんかおもしろい」と思ってもらえるよう。わかりやすい作品だったら、小学生の女の子たちも帰らず、また来ようと思ったのかな、なんて。

 

そしてアートオタクが集まりそうな場所では、ぐっとディープなやつをお願いします。

 

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